茨城県常総市で2015年9月、豪雨で鬼怒川が氾濫し、浸水被害が起きたのは河川管理の不備が原因だとして、住民ら約30人が国に約3億5800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、水戸地裁であった。阿部雅彦裁判長は、国が治水安全を維持するための義務を怠ったと認定し、国に対して、原告のうち9人に計約3900万円を支払うよう命じた。水害訴訟で国を含めた行政機関に賠償命令が出されるのは異例だ。
15年の関東・東北豪雨では、記録的な大雨で鬼怒川が増水し、常総市の若宮戸地区で川の水があふれ、上三坂地区で堤防が決壊。市の総面積の約3分の1にあたる約40平方キロ・メートルが浸水し、災害関連死を含め15人が死亡、住宅5000棟超が全半壊した。
訴訟では、この2地区での国の河川管理が適切だったかどうかが争点となった。国側は鬼怒川全体で堤防などの改修計画を立て、「上流と下流のバランスを総合考慮しながら計画的、段階的に整備を進めていた」として請求棄却を求めていた。
判決で阿部裁判長は、若宮戸地区の民有地の砂丘林が実質的に堤防の役割を果たす「自然堤防」で、国もそう認識していたと指摘。開発などに伴う現状変更が制限される「河川区域」に指定するべきだったのに怠った結果、14年に民間業者によって砂丘林が掘削され、水害の遠因になったと述べた。
一方、上三坂地区については、国が堤防の改修を検討していた事実があり、川の他区間を優先したため未改修だったものの、河川管理行政に瑕疵(かし)があったとは認められないと判断。堤防の高さが不十分なまま放置していたとの住民側の訴えを退けた。
判決を受け、住民側の片倉一美共同代表(69)は「完全な勝利ではないが、歴史的判決。国は真摯(しんし)に受け止め、河川管理をきちんと行ってほしい」と語った。請求が認められなかった一部の住民は控訴の意向を示した。
国土交通省は「判決内容を慎重に検討し、適切に対処する」との関東地方整備局長のコメントを出した。
今後の河川行政に大きな影響
河川管理行政の責任を問う過去の裁判では、行政側の責任は限定的とした「大東水害訴訟」の最高裁判決(1984年)以降、住民側が敗訴するケースが大半だった。行政側が優先順位をつけながら堤防改修を進めていたり、社会通念に照らして是認しうる安全対策を講じていたりすれば、瑕疵はないとの判断基準だ。
今回の判決は、堤防が決壊した上三坂地区について、この基準を引用。一方、砂丘林が削られ、明らかに危険な状態となっていた若宮戸地区については、築堤などの整備もしないまま、「河川区域」指定も怠っていた国の瑕疵を認めた。
問題の砂丘林は民有地だが、阿部裁判長は、河川法で規制が及ばない土地でも、「重大な被害の発生が予見できる場合、私権の制約に優越する利益があることは明らか」と述べた。
北九州市立大の近藤卓也准教授(行政法)は「画期的な判決。今後、行政側は河川区域の指定についても注意を払うことが求められる」と話した。